COLUMN:狩る者たちの正義――排他的な民族思想とアメリカ的暴力の文化
出典:The Order | Official Trailer | Prime Video
※本コラムには映画『The Order(2024)』の一部シーンに関する言及が含まれます。
ストーリーの核心的なネタバレは避けていますが、印象的なシーンや作品のテーマ解釈について触れています。
ご鑑賞前にまっさらな状態で楽しみたい方は、ご注意ください。
【ご注意ください】
本記事では、過去に実在した事件や、過激な思想と見なされている書籍について言及しています。これは、事実関係やその表現が社会に与えた影響を検証することを目的としたものであり、特定の思想、暴力行為、または過激な主張を肯定・推奨する意図は一切ありません。
「鹿を撃つ」ことが意味するもの
映画『The Order』で、どうしても頭から離れなかったのが、主人公ジュード・ロウ演じる元警官が鹿を狙うシーンです。しかもそれは一度だけでなく、二度も描かれます。
警察官という職業は、命の重さを誰よりも理解しているはずです。日々の現場で命の尊さを知り、殺すことの意味を職業倫理として背負っています。それでも彼は、迷いなく銃を構える。その姿に、私は薄ら寒い違和感を覚えました。
調べると、アメリカでは狩猟が伝統的なレクリエーションとして定着しており、法執行官や軍人であっても休日に山に入り、鹿や七面鳥を狙うことは珍しくありません。自然との共生、食料確保、あるいはストレス発散として行われ、命を奪うことと職業倫理が矛盾しない人も多いそうです。
それを踏まえれば、ジュード・ロウの行動も理解はできます。しかし、映画の中での狩猟は単なる趣味や文化以上の意味を帯びているように思えました。
それは“暴力を正当化する象徴” として描かれている――そう感じずにはいられませんでした。

狩猟文化と「正義の暴力」の地続き
アメリカの狩猟文化は、開拓者の歴史と深く結びついています。荒野を切り拓き、自然を制し、土地を奪って国家を築いた“白人男性”の神話。その中で「狩る者であること」は、誇りであり力であり、アイデンティティの核でもあります。
この感覚は動物だけに向けられるわけではありません。「悪い者を駆除する」「社会の病を排除する」「敵を排除する」。狩る快感と結びついたとき、人に向けたライフルも“正義”に見えてしまうのです。
映画の元警官と、実際にテロを実行した白人至上主義者たちの間には線引きがあるようで、実際には曖昧です。暴力の動機や手段は異なっても、「この命は撃ってよい」と信じる心の構造には共通の地平が見えるように思えました。

「思想」ではなく「文化」の怖さ
『The Order』が示す恐ろしさは、極端な思想よりも、それが文化として根づいていることにあります。
犯行に至るプロセスも、個人の極端な思想に突き動かされたというより、むしろ「自分は狩る者である」という信念が決定的だったのかもしれません。
「命を奪うことが、正義や強さと結びついたとき、人はためらわず実行できてしまうのかもしれない」
ジュード・ロウが鹿を狙う姿には、正義感よりも、狩ることへの静かな恍惚が滲んでいるように感じられました。

映画を通して問われるアメリカ社会の深層
この映画は単に「白人至上主義とは何か」を問うだけではありません。
むしろ、「アメリカ社会に染みつく暴力的価値観とは何か」を考えさせられます。暴力は特別な誰かだけのものではなく、社会に浸透した語りとして、日常に潜んでいるのかもしれません。
そして、この題材をあえて映画化したのがカナダであるという事実も、興味深いポイントです。
映画をより深く理解するための補足コラム(ネタバレあり)
▶ COLUMN:なぜカナダが『The Order』を撮れたのか?――北米の隣人がアメリカの“闇”を映すとき
この映画を生んだのはアメリカではなく、カナダでした。なぜ隣国のカナダがこの題材に踏み込めたのか?背景には、政治的な距離感と「見る者」としての立場があったように感じました。
❖ COLUMN:なぜカナダが『The Order』を撮れたのか?へ
作品をすでにご覧になった方へ
物語の核心に踏み込んだネタバレありの感想・考察記事も公開しています。
実在の事件や『ターナー日記』との関連を含め、映画がなぜ“今”作られたのか、その問いに迫りました。
❖ 『The Order(2024)』ネタバレあり感想・考察|実話が残した“終わらない戦慄”を観る
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