カナダ映画

COLUMN:狩る者たちの正義――排他的な民族思想とアメリカ的暴力の文化

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出典:The Order | Official Trailer | Prime Video

※本コラムには映画『The Order(2024)』の一部シーンに関する言及が含まれます。
ストーリーの核心的なネタバレは避けていますが、印象的なシーンや作品のテーマ解釈について触れています。
ご鑑賞前にまっさらな状態で楽しみたい方は、ご注意ください。

【ご注意ください】
本記事では、過去に実在した事件や、過激な思想と見なされている書籍について言及しています。これは、事実関係やその表現が社会に与えた影響を検証することを目的としたものであり、特定の思想、暴力行為、または過激な主張を肯定・推奨する意図は一切ありません。

北米の森で鹿を狙う緊張感あふれる狩猟シーン。ライフルと鹿の影が不安な雰囲気を作る

警察官という職業は、命の重さを誰よりも知っているはずです。殺すことの意味を、職業倫理としても日々の現場でも理解している。
それなのに、彼はまるで迷いなく銃を構える。私はその姿に、どこか薄ら寒い違和感を覚えました。

けれども調べてみると、アメリカでは狩猟が“伝統的なレクリエーション”として定着していることを知りました。
法執行官や軍人であっても、休日には山に入り、鹿や七面鳥を狙う。自然との共生や食料確保、あるいはストレス発散として捉えられていることも多く、
命を奪うことと職業倫理とのあいだに、矛盾を感じない人も少なくないのだそうです。

そう説明されると、ジュード・ロウの行動も“アメリカ人らしい”ものとして理解はできるのですが、どうしても私は納得しきれませんでした。
というのも、この映画における狩猟は、単なる余暇や風習としてではなく、もっと
“暴力を正当化する象徴” のように思えてならなかったからです。

広大な荒野と鹿のシルエット、アメリカ開拓史を象徴する風景。狩る者の誇りと力を暗示

たとえば、アメリカに根づく「狩猟文化」は、開拓者の歴史と深く結びついているとされます。
荒野を切り拓き、自然を制し、土地を奪って国家を築いた
“白人男性”の神話
その中で「狩る者であること」は、誇りであり力であり、アイデンティティの核でもあります。

そしてその感覚は、何も動物だけに向けられるわけではありません。
「悪い者を駆除する」「社会の病を排除する」「敵を排除する」。
そうした発想が、
“狩る快感”と結びついたとき、人間に対してもライフルを向けることが正義になってしまう。

この構造において、元警官の彼と、実際にテロを実行した白人至上主義者たちのあいだには、線引きがあるようで、どこか曖昧にも見えてきます。
暴力をふるう動機や方法は違っても、
「この命は撃ってよい」と信じてしまう心の構造 には、共通する地平があるように思えてしまったのです。

荒野に浮かぶ鹿の影と光と影のコントラストで、正義と暴力の曖昧さと心理的緊張を表現

『The Order』が恐ろしいのは、思想そのものよりも、それが
“文化”として染みついていること でした。
犯人たちが犯行に至るプロセスも、誰かひとりの極端な思想に突き動かされるというより、
「自分は狩る者である」と信じてしまったことの方が決定的だったように思えます。

「命を奪うことが、“正義”や“強さ”と重なってしまったとき、人はそれをためらいなく実行できてしまうのかもしれません。」

ジュード・ロウが鹿を狙う姿には、正義感ではなく、
“狩ることへの恍惚” が静かに滲んでいるように感じられました。

この映画を観て、
「白人至上主義的思想とは何か?」 と問うだけでなく、
「アメリカ社会に根づく暴力的な価値観とは何か?」 を考えずにはいられませんでした。

暴力は決して特別な誰かだけのものではなく、社会に染み込んだ“語り”として、日常の中に潜んでいるのかもしれないと、そう思えてしまったのです。

そして、この題材をあえて映画化したのが
カナダ
であるという事実にも、私は注目しました。


映画をより深く理解するための補足コラム(ネタバレあり)

▶ COLUMN:なぜカナダが『The Order』を撮れたのか?――北米の隣人がアメリカの“闇”を映すとき

この映画を生んだのはアメリカではなく、カナダでした。なぜ隣国のカナダがこの題材に踏み込めたのか?背景には、政治的な距離感と「見る者」としての立場があったように感じました。

COLUMN:なぜカナダが『The Order』を撮れたのか?へ


作品をすでにご覧になった方へ

物語の核心に踏み込んだネタバレありの感想・考察記事も公開しています。
実在の事件や『ターナー日記』との関連を含め、映画がなぜ“今”作られたのか、その問いに迫りました。

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このレビューを書いた人
高瀬 楓(たかせ かえで)
高瀬 楓(たかせ かえで)
映画と余韻のブロガー。  週末19時に更新中。
はじめまして。映画ブロガーの高瀬 楓(たかせ かえで)と申します。 「映画の余韻にじっくりと浸りながら、自分の視点で感じたことを丁寧に言葉にしたい」との思いから、映画レビューサイト《Silverscreen Pallet》を運営しています。 心に残るシーンやテーマを深く味わいながら、読者の皆さまの記憶に響くような記事をお届けできたら嬉しいです。
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