映画 赦し レビュー 第6章:殺人と赦し──倫理と感情のはざまで【ネタバレ注意】

【ネタバレを含みます】
本記事では、映画『赦し』の登場人物や象徴的なシーンについて触れています。物語の印象を大切にされたい方は、鑑賞後にご覧いただくことをおすすめいたします。
出典:YouTube / A FILM BY ANSHUL CHAUHAN 公式チャンネル
第6章:殺人と赦し──倫理と感情のはざまで
ひとがひとを殺めるということの重さと社会復帰の問い
ひとがひとを殺めるということ──その重さは、法や制度だけでは語りきれない深淵を孕んでいます。
命を奪うという行為の向こう側にあるのは、取り返しのつかない断絶と、消えることのない傷跡。
では、その加害者が社会に復帰するとは、いったいどういうことなのでしょうか。
私たちは、倫理と感情のはざまで揺れながら、「赦し」という言葉の意味を、静かに問い直すことになります。
前の章を読む:
▶ 第5章:克の「嬉しそうな再会」がもたらす違和感──“赦し”に潜む不誠実さ
はじめから読む:
▶ 第1章:序章──映画『赦し』の核心へと導く視点
殺人者の社会復帰と倫理的拒否感
殺人という行為がもたらす結果は、言葉では到底表現しきれないほど深く、重いものです。
ゆえに、加害者が罪を償った後に社会に戻るという事実に、多くの人が強い拒否感を抱くのは、ごく自然な反応とも言えるでしょう。
「なぜ、再び普通の生活を送ることが許されるのか」。
この問いは、倫理の根底をなす“命の不可逆性”への直感的な反発であり、私たちの心がその受け入れを拒むのも無理のないことなのです。
償いに必要な覚悟と責任
「人を殺すには覚悟がいる」──
この言葉は、倫理的にきわめて重い意味を含んでいます。
命を奪うという行為は、どれほど反省しても、決して取り消すことのできない事実です。
社会復帰を願うのであれば、加害者には、深い反省と一生にわたる責任、そしてそれを引き受ける覚悟が求められます。
「一生塀の中で償う覚悟」や「自決する覚悟」が口にされる背景には、命というものへの根源的な敬意と、倫理に対する緊張感が漂っています。
再出発の是非と人権のバランス
もちろん、加害者であっても人権を有し、法的には償いの後に社会復帰の機会が与えられるべきだという考え方もまた、重要です。
しかし、重大な犯罪においては、その「再チャンス」が軽々しく与えられるべきでないこともまた、見過ごせない現実です。
反省の深さ、行動の誠実さ、そして生き直すという覚悟の重さ──それらを社会は慎重に見極めなければなりません。
再出発の道は、存在していても、平坦であってはならないのです。
感情的拒絶と倫理的理解の対立
「怖い」「許せない」といった感情的な反応は、決して非合理なものではありません。
それらは人間らしい自然な感覚であり、ときに倫理的な立場よりも深く、私たちの判断を形づくっていきます。
被害者や遺族にとっては、加害者の存在自体が、心の傷を再び呼び起こすものになり得ます。
受け入れに要する時間、複雑な感情の整理、そして沈黙の奥に潜む怒りや悲しみ──感情と倫理はしばしば対立しますが、そのどちらも軽視すべきではないのです。
「殺さなかった自分」の選択を誇る意義
最後に、もうひとつの視点に触れておきたいと思います。
どれほど強い怒りや憎しみを抱えても、他者の命を奪うことなく踏みとどまった──その選択こそ、もっとも尊い“倫理の実践”ではないでしょうか。
「殺さなかった」という行為には、静かで、確かな意志が宿っています。
傷つきながらも他人を傷つけずに生きることは、己の尊厳を守り、未来への希望を紡ぐ力になるのです。
その選択を、私たちは誇りにしてもよいのだと、心から思います。
赦しの本質と親たちの葛藤
赦しとは、ただ「許す」ことではなく──
どこまでも深く、揺らぎながら、それでもなお人として在ろうとする、決意の在り方なのかもしれません。
第六章で扱った“赦し”と社会的再出発の問題──
その余白に広がるのは、言葉の奥ににじむ、親たちの葛藤や感情の断絶でした。
なぜ彼らは子どもを「この子」と呼び、「あの子」と言い換えるのか。
それは、赦しえぬ感情の名残であり、名づけによる距離の表現でもあったのです。
COLUMN:
▶“この子”“あの子”と呼ぶ親たち──言葉ににじむ感情の断絶
赦しの不在と沈黙が映す心の底
怒りに満ちた夜を越えても、朝が来るとは限りません。
赦しとは、ときにその不在こそが、声なき形を持ちます。
澄子の涙と、言葉を拒んだ沈黙──
その一滴と、その静けさが映し出していたのは、赦せなかった心の底でした。
語られなかった赦し、語ることさえできなかった赦し。
その曖昧な輪郭に、私たちは何を見出せるのでしょうか。
次の章を読む:
▶第7章:“赦し”を巡る沈黙──涙と語られなかった言葉たち
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