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『The Order(2024)』ネタバレあり感想・考察|実話が残した“終わらない戦慄”を観る

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出典:The Order | Official Trailer | Prime Video


あらすじ

太平洋岸北西部で、銀行や装甲車を狙った大胆な強盗事件が相次ぐ。
連続事件の背後に潜む意図を探るFBI捜査官テリー・ハスク(ジュード・ロウ)は、やがて犯行グループが国内の過激派組織であることを突き止める。彼らは奪った資金を、政府への反乱計画に利用しようとしていた。

映画『ザ・オーダー』は、過激な思想に傾倒した集団と、それを追う捜査官の対立を通じて、社会の分断や暴力の連鎖を描いた社会派サスペンスである。
捜査が進むにつれ、ハスクは指導者ボブ・マシューズの危険な信念と対峙し、国家を揺るがす最終局面へと踏み込んでいく。

“実話”を描いたこの映画に、どこまで「現実」が映っているのか――。

※画像:The Order | Official Website | December 06 2024

映画『The Order』は、1980年代アメリカで実際に起きた白人至上主義テロ組織「ザ・オーダー」の実録事件を題材としています。原作はケヴィン・フリンとゲイリー・ゲルナーによる1989年刊行のノンフィクション小説『The Silent Brotherhood』です。主演のジュード・ロウ演じるFBI捜査官テリー・ハスクは、組織の正体と犯行の実態を追いながら、中心メンバーである若者たちの過激思想と対峙していきます。

公開当初から「なぜ今この映画が作られたのか」という意義が議論され、重い題材の表現方法に注目が集まってきました。実際に映画を観た私は、そこにこそ大きな“引っかかり”を感じました。

北米の密林で霧に包まれた森、FBI捜査官の孤立感と潜む危険、遠くに鹿の影が見える緊張感のある風景

FBI捜査官たちの行動や捜査の進め方には、どこか“ゆるさ”がありました。単身で山中に乗り込み、応援を要請したはずの若い警察官が孤立無援で殉職してしまう場面には、本当に連邦捜査官の現実的な行動なのか、と疑問を抱かざるを得ませんでした。

彼らの会話もどこかローカルな警官のようで、知的な連邦捜査というより、泥臭く場当たり的な印象を受けました。終盤には、事件の鍵を握る容疑者が焼け死に、“語られないまま”退場する展開もあり、割り切れない感覚が残ります。

しかし、この一見“不自然な描写”こそが映画が描きたかったリアリティかもしれません。無謀で粗雑な暴力が国家すら揺るがし、愚かで未熟な人間の判断が命を奪う――それは現実そのものであり、観る者の理性を問う仕掛けとして機能していたように思えます。

夜の都市廃墟、荒れた駐車場や街路、暴力と道徳の曖昧さを示す緊張感のある都市景観

しかし、アメリカでは狩猟は一般的なレクリエーションであり、軍人や警察官も行うことが珍しくありません。自然との共生、食料の確保、ストレス発散など、それぞれ理由があります。

映画の中では、狩猟は単なる趣味や文化を超えた意味を持つように描かれています。それは“敵を狩る”快感や、暴力を正当化する本能の象徴にも見えました。

観終えたとき、その“不確かさ”こそがテーマだったのかもしれません。過激思想に取りつかれた若者たちは、理屈も倫理も超えて暴力に突き進みます。それは報道や裁判記録に残る、命が失われた歴然たる「事実」です。

廃工場内の暗い空間、秘密の極右組織の象徴的モチーフ、重苦しく不穏な雰囲気

映画のラストに表示される一文――「この事件は過去の話ではない」――は、アメリカ国内で続く過激思想の連鎖と政治的暴力の現実を凝縮しています。1980年代の実話に基づく本作は、単なる歴史ものではありません。むしろ今この瞬間にも起きうる危機を、静かに私たちに警告しています。

現実は映画よりも不気味で、そして簡単に繰り返されます。だからこそ、私はこの映画を「今観るべき一本」だと感じました。

これは、実際に起きたこと。そして今もどこかで続いていること。過激思想が若者を呑み込み、理想の名のもとに暴力を正当化する――現実は過去の話ではありません。

だからこそ、作品の“気味の悪さ”や“腑に落ちなさ”に目をそらさず向き合うことが、観る私たちに託されたひとつの「責任」なのだと思います。脚色か事実かを見分けるのは難しい。けれど、その曖昧さの中で揺れながら、「これは本当に自分の生きる世界なのか?」と問い続けること。それが最も誠実な鑑賞態度ではないでしょうか。


映画をより深く理解するための補足コラム(ネタバレあり)

COLUMN:『ターナー日記』とは何か?へ


COLUMN:『ターナー日記』はなぜ“バイブル的な存在”になったのかへ


COLUMN:『なぜ彼らは信じたのか?』へ


COLUMN:狩る者たちの正義へ


COLUMN:なぜカナダが『The Order』を撮れたのか?へ

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このレビューを書いた人
高瀬 楓(たかせ かえで)
高瀬 楓(たかせ かえで)
映画と余韻のブロガー。  週末19時に更新中。
はじめまして。映画ブロガーの高瀬 楓(たかせ かえで)と申します。 「映画の余韻にじっくりと浸りながら、自分の視点で感じたことを丁寧に言葉にしたい」との思いから、映画レビューサイト《Silverscreen Pallet》を運営しています。 心に残るシーンやテーマを深く味わいながら、読者の皆さまの記憶に響くような記事をお届けできたら嬉しいです。
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