映画『赦し』レビュー|“許す”でも“忘れる”でもない、その間に残されたもの
今、この映画を見る理由
人は、どこまで他者の痛みに寄り添えるのでしょうか。
映画『赦し』は、答えを与える作品ではありません。語られなかった言葉、届かなかった気持ち、その「空白」こそが観る者に委ねられます。感動や救済を急がないからこそ、この映画は今、静かに観る意味を持っています。
【ご一読ください】
本記事は、物語の核心部分には触れず、作品全体の空気感やテーマ性、鑑賞時の参考となる観点を中心に構成しています。
また、作品によっては、人間関係や社会的な題材、心理的な揺らぎを扱う場面が含まれることがあります。ご自身の感受性や鑑賞環境に応じて、無理のない形でお楽しみください。

総合まとめ
国内平均星評価:3.26/5
海外平均星評価:3.4/5
※このチャートは、確認できた国内外の評価サイトのスコアをもとに作成しています。
未評価のサイトは平均に含めていません。あくまで参考としてご覧ください。
あらすじ
※本項目は物語の骨子のみを扱います。
ある出来事をきっかけに、大切な存在を失った夫婦・澄子と克。時間が経過する中で、二人はそれぞれ異なるかたちで現実と向き合おうとします。一方、出来事の当事者である夏菜は、社会制度のもとで自身の過去と向き合う立場に置かれていました。
再び交差する視線と言葉。その場で交わされたもの、そして交わされなかったものが、静かに関係性を揺らしていきます。
出典:YouTube / A FILM BY ANSHUL CHAUHAN 公式チャンネル
【ネタバレ注意】
※本記事では、登場人物や象徴的シーンに触れ、私なりの考察や解釈を掲載しています。これより先はネタバレになりますので、物語を楽しみたい方は鑑賞後の閲覧を推奨します。
「赦し」が軽く見えてしまう瞬間について
物語の中盤、関係性が一時的に和らいだかのように見える場面があります。
けれど、その柔らかさは本当に共有されたものだったのでしょうか。
表情や言葉の表層だけを見ると、前向きな変化のようにも映ります。しかし、その裏側には、整理されきらない感情が残されたままでした。
赦しが「前に進むための手段」として先行するとき、そこには違和感が生じます。この映画は、その違和感をあえて解消しません。
言葉が整っているほど、届かないこともある
面会室で交わされる言葉は、非常に丁寧です。
しかし、丁寧さが必ずしも誠実さと一致するとは限りません。
謝意や反省を示す表現が並んでいても、相手の時間や感情を引き受ける覚悟が伴わなければ、言葉は形式に留まります。本作が描くのは、「言えたかどうか」ではなく、「向き合えたかどうか」という点でした。
ここで語られなかった沈黙は、説明よりも雄弁だったように感じられます。

社会制度と感情は、同じ速度で進めない
制度は、人が生活を続けるために必要な枠組みです。
しかし、感情は制度の時間軸に合わせて整理されるものではありません。
支援を受けながら日常を立て直す克の姿は、合理的でありながら、どこか孤立しても見えます。
「支えられているなら前を向くべきだ」という無言の期待は、本人の内面をさらに静かに追い詰めていきます。
この映画は、制度の正しさと、心の速度が必ずしも一致しない現実を淡々と示しています。

並ばなかった二人の距離感
物語の終盤、二人は同じ場所にいながら、同じ方向を見てはいません。
寄り添うことも、決定的に離れることも選ばれなかった関係。
それは未解決の象徴であり、同時に誠実さの証でもあります。
無理に意味づけをしない選択が、かえって観る者の思考を深く促します。

「終わらせなかった」という結末
ラストに示されるのは、完結ではなく保留です。
物語としては不親切かもしれません。しかし、人の感情を扱う作品としては、極めて正直です。
すべてを言語化せず、整えず、残したままにする。
その態度こそが、本作の最大の特徴だと感じました。

🔗 関連作品・参考情報
🎬アンシュル・チョウハン監督
・過去作・関連作品:
- 『東京不穏詩/Bad Poetry Tokyo』(2018年)
- 『コントラ/Kontora』(2019年)
🎭尚玄
・過去作・関連作品:
- 『ハブと拳骨/Bloody Snake Under the Sun』(2008年)
- 『義足のボクサー /Gensan Punch』(2021年)
🎭MEGUMI
・過去作・関連作品:
- 『孤狼の血』(2018年)
- 『台風家族』(2019年)
今日の色彩:鈍い灰色
今日のかけら:
答えが出ない状態を、無理に終わらせない勇気
今日のひとしずく:
「理解できないことと、向き合わないことは違う」
7/19(土)公開の『映画 赦し 考察ノート1:弁護士の仮面と“正義”の揺らぎ 』
法廷で語られる「正義」は、誰を守り、誰を傷つけたのか。弁護士の言葉に潜む役割意識と無自覚な暴力を辿りながら、遺族の心に残された違和感を考察します。あなたは、その言葉を正義だと言い切れますか。
7/20(日)公開の『映画 赦し 考察ノート2:“罪の波紋”はどこまで届くのか』
罪は加害者だけのものなのか。事件後、静かに壊れていく加害者家族の現実と、それを見つめる遺族の視線を重ねて読み解きます。赦しとは、誰のために存在するのか──そう問い直したくなる一章です。

