再構築された古典シリーズ

『ヘッダ』|同性愛者設定で刷新された心理戦ドラマを徹底考察

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イプセンの古典『ヘッダ・ガーブレル』を、女性同士の関係として再構築した新作『ヘッダ』。監督ニア・ダコスタと主演テッサ・トンプソンが挑むのは、「知性」と「欲望」が衝突する現代の女の肖像です。古典の枠を超えて描かれる“同性間の支配と憧れ”は、いまの時代だからこそ響くテーマではないでしょうか。


【ご安心ください】
※本記事では、映画の結末や重要シーンの具体的な内容には触れていません。雰囲気やテーマ、鑑賞の目安を中心に紹介しています。

※注意:本記事には、暴力描写、過激な表現、心理的・社会的に敏感なテーマ(家族関係、差別、精神的葛藤など)が含まれる場合があります。苦手な方や未成年の方は閲覧にご注意ください。

Prime VideoHedda – Official Trailer


あらすじ

新婚旅行を終えた ヘッダ・ガブラー(ヘッダ)は、夫との静かな生活にどこか満たされないものを感じていた。彼女が強く望んでいた自由、刺激、そして自らの存在意義――それらは日常の枠組みに囚われるほど燃え立つ。ある夜、かつての恋人の影と突発的な集いが、彼女の内面に眠る衝動を揺さぶる。やがてヘッダの選択は、彼女自身だけでなく周囲の人間にも破滅の波を広げていく。

【ネタバレ注意】
※本記事では、登場人物や象徴的シーンに触れ、私なりの考察や解釈を掲載しています。これより先はネタバレになりますので、物語を楽しみたい方は鑑賞後の閲覧を推奨します。

愛とは、誰を支配したいという衝動なのか。それとも、理解されたいという渇望なのか――。

映画『ヘッダ』は、その境界線を冷ややかに照らし出します。

テッサ・トンプソン演じるヘッダは、誰よりも知的で、誰よりも退屈している女性です。

表面上は上品で冷静に見えながら、内側では他人を弄び、自分の退屈を紛らわせようとする。

そんな彼女の“上品な下品さ”こそが、この作品の最大の魅力に思えました。

ラブボルグ(イブリン・モシク)との過去を知るほどに、ヘッダの「嫉妬」が見えてきます。

それは恋愛感情の残り火というより、“自分の手で変えた相手”を手放せない執着。

彼女の冷笑の裏には、「自分が彼女を作った」という歪んだ支配欲が見え隠れしていました。

暖炉で書類を燃やす女性、反射と影が交錯し嫉妬と心理的葛藤を表す室内

シア(ヴィヴィカ・ポール=バーンズ)は、ラブボルグを見守る存在として登場します。

彼女の演技は一見穏やかですが、そこに滲む「見張りの目」が非常に印象的でした。

監視と献身、その境界が曖昧になる瞬間、彼女自身の心もまた蝕まれていくように感じました。

本来ならラブボルグの更生を支える役割のはずが、ヘッダの挑発によって次第に不安定に。

“女性が女性をコントロールしようとする構図”が、観る者に妙な緊張感をもたらします。

夜景を望むバルコニーで孤独に立つ女性、監視される視線と孤立感を表現

本作が秀逸なのは、単なる「女性版ヘッダ・ガーブレル」ではなく、

同性間の愛・嫉妬・社会的立場のズレを、現代的なトーンで描き直した点です。

とくに印象的なのは、ラブボルグの断酒というモチーフ。

酒を絶ち真面目に生きようとする彼女は、過去の自分(=ヘッダとの関係)を断ち切ろうとしているように見えました。

この“回復と再生”の物語が、ヘッダの側から見れば“裏切り”に映るという構図が痛烈です。

整えられた庭園で二人の女性がそっと向き合う、懐かしく切ない思い出を象徴

終盤、ヘッダの顔の後に挿入される白い光の点滅。

この演出は観る者を不快にさせるほど強烈で、「なぜ今ここで?」と戸惑いました。

ただし、これはおそらく“彼女の崩壊の瞬間”を視覚化したものでしょう。

光の閃きが、理性の亀裂、虚栄の崩壊を象徴しているように思えました。

美しい映画でありながら、この不快感が最後に強く残る。その違和感が、作品全体の余韻をより深めています。

ヘッダは、相手を破滅させようとすることでしか自分を保てない。

ラブボルグは、過去の自分を赦そうとして生き直そうとする。

二人の女性が、互いの生き方を通じて“自分の鏡像”を見てしまう――。

この構図こそが本作の根幹にある「自己破壊の連鎖」ではないでしょうか。

🔗 関連作品・参考情報

🎬ニア・ダコスタ監督

・過去作・関連作品:

  • 『ヘヴィ・ドライヴ Little Woods』(2018年)
  • 『キャンディマン Candyman』(2021年)

🎭テッサ・トンプソン

・過去作・関連作品:

  • 『クリード チャンプを継ぐ男 Creed』(2015年)
  • 『マイティ・ソー バトルロイヤル Thor: Ragnarok』(2017年)

🎭イモージェン・プーツ

・過去作・関連作品:

  • 『28週後… 28 Weeks Later』(2007年)
  • 『ニード・フォー・スピード Need for Speed』(2014年)

🎭トム・ベイトマン

・過去作・関連作品:

  • 『オリエント急行殺人事件 Murder on the Orient Express』(2017年)
  • 『ナイル殺人事件 Death on the Nile』(2022年)

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このレビューを書いた人
高瀬 楓(たかせ かえで)
高瀬 楓(たかせ かえで)
映画と余韻のブロガー。  週末19時に更新中。
はじめまして。映画ブロガーの高瀬 楓(たかせ かえで)と申します。 「映画の余韻にじっくりと浸りながら、自分の視点で感じたことを丁寧に言葉にしたい」との思いから、映画レビューサイト《Silverscreen Pallet》を運営しています。 心に残るシーンやテーマを深く味わいながら、読者の皆さまの記憶に響くような記事をお届けできたら嬉しいです。
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