『PERFECT DAYS(パーフェクト・デイズ)』レビュー|都市の静けさに宿る完璧な日々【ネタバレあり・役所広司主演映画感想】
【ネタバレ注意】
本記事では映画『PERFECT DAYS(パーフェクト・デイズ)』の登場人物や象徴的なシーンに言及しています。物語の印象を大切にされたい方は、鑑賞後のご一読をおすすめいたします。

総合まとめ
国内平均星評価:4.05/5
海外平均星評価:4.13/5
※このチャートは、確認できた国内外の評価サイトのスコアをもとに作成しています。
未評価のサイトは平均に含めていません。あくまで参考としてご覧ください。
あらすじ
(以下、公式サイトより引用)
東京・渋谷でトイレ清掃員として働く平山(役所広司)は、
静かに淡々とした日々を生きていた。
同じ時間に目覚め、同じように支度をし、同じように働いた。
その毎日は同じことの繰り返しに見えるかもしれないが、
同じ日は1日としてなく、
男は毎日を新しい日として生きていた。
その生き方は美しくすらあった。男は木々を愛していた。
木々がつくる木漏れ日に目を細めた。
そんな男の日々に思いがけない出来事がおきる。
それが男の過去を小さく揺らした。
出典:YouTube /ビターズ・エンド(Bitters End)
静けさに心を奪われて──『Perfect Days』がくれたもの
きっかけは、テレビ番組で役所広司さんが主演だと知ったことでした。
役所さんといえば、ムショ上がりのチンピラから、口うるさいけれど愛情深い父親まで幅広く演じる名優。その彼が、台詞の少ない“静かな映画”でどのような表現を見せてくれるのか──それが、私の興味を大きく引きつけたのです。
静かな館内、一人でこの『Perfect Days』を観た帰り道、私はしばらく言葉を失っていました。
でも、心の奥には確かに何かが残っていて──その余韻を、自分の言葉でたどってみたくなりました。
葉のない語りかけ──平山という人物
主人公・平山は、ほとんど語りません。でも、その沈黙は決して閉ざされたものではなく、むしろ豊かな対話のように感じられました。
彼の世界には、植物の緑やカセットテープの音、ページをめくる音、そしてシャッターを切る静かなリズムが流れています。
誰かに向けた言葉ではなく、自分自身と、そして世界とつながるための“静かな声”。それが、平山の日々を構成しているのです。
彼の暮らしには、派手な展開も説明もありません。けれど、その小さな営みのひとつひとつに、深い祈りのような想いが宿っています。
「完璧」とは誰のためのもの?
ある日、彼の静かな生活に”家族”が現れます。にぎやかで、世間的には”整った”その姿は、対照的でした。
でも私は思いました──本当に満たされているのは、どちらなのだろう?
誰もがうらやむような家庭のはずなのに、そこには見えない孤独の影がありました。
そして、それは平山の静けさとはまったく異なる、もっと深い“寂しさ”を抱えているように見えました。
一方で、平山の生活は地味で、孤独にも映ります。でも、心の中には確かな温かさがある。
見せびらかさず、ただ静かに、丁寧に。彼が生きているのは、他人の価値観ではなく、自分の価値観で測った世界なのだと感じました。
光と影のあわいに漂う
この映画の中で、とても印象的だったのが「木漏れ日」の描写です。
東京の街中にふと現れるその光は、まるで彼をそっと見守るように、優しく揺れていました。
私には、その光が“癒し”であり、“救い”のようにも思えました。けれど同時に、影もまたそこに存在しています。
木漏れ日の影が、彼の心にふと差す不安や、社会からの偏見のようにも感じられたのです。
そうした光と影のコントラストが、この映画の美しさをいっそう際立たせていました。
無関心ではなく、静けさとしての都市
監督のヴィム・ヴェンダースは、東京をせわしないコンクリートジャングルではなく、「静けさが生きる場所」として描いています。
人が多く集まるはずの都市なのに、どこか余白がある。その不思議な空気感が、私はとても好きでした。
地方のような“人との密接なつながり”が少ない分、都市には干渉されない自由があります。
他人に期待せず、自分のペースで生きていける空間。
その冷たさと優しさの間にこそ、平山のような人が暮らせる居場所があるのだと思いました。
反復が生む、心の再生
平山の生活はルーティンに満ちています。
けれど、それはただの繰り返しではなく、日々少しずつ変わっていく「再生」のように感じられました。
植物の成長、ページをめくる指先、カセットテープに流れる音楽──昨日と同じようで、微細に違う今日。
それを丁寧に感じとる彼の姿に、私は「生きることの美しさ」を教えてもらった気がしました。
涙の意味、そして明日へ
ラストの彼の表情には、深い感情がにじんでいました。
涙の理由は語られません。でも、それが“悲しみ”ではなく、“明日へ向かう静かな再生”であることは、観た人ならきっと感じ取れるはずです。
その静かな涙は、誰かとわかり合えた喜びかもしれないし、ひとりきりの孤独を抱きしめた時間だったのかもしれません。
どんな理由であれ、その涙が胸に残り、私たちの心にも静かな揺らぎをもたらしてくれるのです。
「Perfect Days」というタイトルの意味
なぜ”Perfect Day”ではなく、”Perfect Days”なのか──観終わったあと、その意味がじわじわと伝わってきました。
完璧な一日は、偶然に訪れるものではなく、日々の積み重ねの中で生まれていくものなのだと。
今日がうまくいかなくても、明日また、”完璧な日”が訪れるかもしれない。
そんな小さな希望が、静かに私たちを支えてくれます。
今、この映画を観る理由
忙しさに追われ、心をすり減らしてしまいそうな今だからこそ、『Perfect Days』は静かに語りかけてくれます。
「何が本当に大切なのか?」
それを派手な演出や言葉ではなく、“静けさ”という贅沢で教えてくれるこの映画。
日々の中でふと立ち止まりたくなったとき、ぜひ映画館で、この特別な静寂を体験してみてください。
きっと、観終えたあと、心のどこかに優しい余韻が残るはずです。
【次回予告】
『シェフ! 三ツ星レストランの舞台裏へようこそ』
効率や刺激ばかりを求めがちな毎日。
そんな日々の隙間に、ほっと一息つけるような映画があります。
次回のレビューは、フランス発のフード・コメディ
『シェフ! 三ツ星レストランの舞台裏へようこそ』をお届けします。
火加減ひとつで、心まで温まることがある。
映っていないのに、料理の香りがただようような不思議。
不器用だけれど、まっすぐなふたりの料理人が織りなす、笑いと優しさに満ちた物語。
「今日は、ちょっとだけ力を抜きたい」
そんな夜にぴったりの一本です。

