カナダ映画

COLUMN:なぜカナダが『The Order』を撮れたのか?――北米の隣人がアメリカの“闇”を映すとき

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出典:The Order | Official Trailer | Prime Video

※本コラムには映画『The Order(2024)』の一部シーンに関する言及が含まれます。
ストーリーの核心的なネタバレは避けていますが、印象的なシーンや作品のテーマ解釈について触れています。
ご鑑賞前にまっさらな状態で楽しみたい方は、ご注意ください。

【ご注意ください】
本記事では、過去に実在した事件や、過激な思想と見なされている書籍について言及しています。これは、事実関係やその表現が社会に与えた影響を検証することを目的としたものであり、特定の思想、暴力行為、または過激な主張を肯定・推奨する意図は一切ありません。

『The Order』がカナダ映画だと知ったとき、正直少し驚きました。
これはアメリカの極右思想と暴力事件を描いた映画です。事件はアメリカで起き、登場人物もアメリカ人。しかし製作国はカナダ。
「なぜカナダが?」という疑問が拭えなかったのです。

でも観終わってから思いました。
カナダという“距離”があったからこそ、この映画はあれほど冷静に、鋭く、そして痛々しく暴力を見つめることができたのではないかと。

アメリカとカナダは、地理的にも歴史的にも近い存在ですが、その文化的性格は大きく異なります。
銃規制、健康保険制度、国家アイデンティティ、多文化主義。どれをとってもアメリカとは対照的です。
カナダでは「国家の強さ」よりも「他者との共存」が語られやすい印象があります。

そうした土壌の中で、“白人至上主義”をあえて外部から見つめるという姿勢が取れたのかもしれません。
批評的・分析的な語り口が貫かれていたのも、どこか“当事者”ではない立場から語っているように感じられました。

カナダの映画産業は、派手さよりも社会的テーマへの深いアプローチで知られています。
例えば公共資金(NFBやTelefilm Canadaなど)による支援があるからこそ、商業性に縛られない作品が多く生まれています。

特にこの映画のような「過激思想への批判」や「人間の暗部を見つめる作品」は、カナダの国際映画祭でも高く評価されやすいジャンルです。
感情的な煽動ではなく、“冷徹な問い”として問題を投げかける姿勢は、まさにカナダ映画らしさだと感じました。

アメリカ社会が生んだ暴力を、アメリカ自身が正面から描くのは難しいこともあるでしょう。
感情の渦中にいる者にとって、批評的距離を持つことは簡単ではありません。

だからこそ、カナダという“隣国”からの視線が意味を持ったのではないかと思えたのです。
『The Order』の語り口には、「これはあなたたちの問題であり、私たちの問題でもある」という静かな共振がありました。

そして私たち観客に対しても、こんな問いを投げかけてきます。
「あなたの国では、これを撮れるだろうか? 語れるだろうか?」

わたしはこの問いが、映画を越えて私たちの社会や言論の自由にまで及ぶものだと感じました。
『The Order』は、カナダで作られたからこそ、こんな問いを静かに投げかける力を持ち得たのだと思います。

作品をすでにご覧になった方へ

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このレビューを書いた人
高瀬 楓(たかせ かえで)
高瀬 楓(たかせ かえで)
映画と余韻のブロガー。  週末19時に更新中。
はじめまして。映画ブロガーの高瀬 楓(たかせ かえで)と申します。 「映画の余韻にじっくりと浸りながら、自分の視点で感じたことを丁寧に言葉にしたい」との思いから、映画レビューサイト《Silverscreen Pallet》を運営しています。 心に残るシーンやテーマを深く味わいながら、読者の皆さまの記憶に響くような記事をお届けできたら嬉しいです。
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