ヒューマンドラマ

『テルマがゆく!93歳の優しいリベンジ』実話が胸を打つ理由|年齢と尊厳を描く映画考察

成人した孫がパソコン操作を教える祖母テルマの穏やかな日常風景。高齢者とデジタル社会、世代間のすれ違いと支え合いを象徴する室内シーン
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年齢や立場によって、選択肢が静かに狭められていく――そんな感覚を覚えたことはないでしょうか。

『テルマがゆく!93歳の優しいリベンジ』は、「守られる側」に置かれがちな高齢者の人生を、驚くほど軽やかに、そして誠実に描いています。これは特別な誰かの物語ではなく、私たちの少し先にある未来を、そっと覗かせる映画だと感じました。

【ご一読ください】
本記事は、物語の核心部分には触れず、作品全体の空気感やテーマ性、鑑賞時の参考となる観点を中心に構成しています。

また、作品によっては、人間関係や社会的な題材、心理的な揺らぎを扱う場面が含まれることがあります。ご自身の感受性や鑑賞環境に応じて、無理のない形でお楽しみください。

総合まとめ

国内平均星評価:3.59/5

評価 :3.5/5。

海外平均星評価:3.55/5

評価 :3.5/5。

※このチャートは、確認できた国内外の評価サイトのスコアをもとに作成しています。
未評価のサイトは平均に含めていません。あくまで参考としてご覧ください。

あらすじ

93歳のテルマは、夫を亡くしたあとも一人暮らしを続ける穏やかな女性です。ある日、思いがけない出来事によって生活の基盤が揺らぎますが、彼女は年齢を理由に諦めることを選びません。旧友ベンとともに電動スクーターで行動を起こし、自分の尊厳を取り戻そうとするテルマ。その姿を通して本作は、高齢者の自立、家族との距離、そして「行動する勇気」をユーモアと温かさを交えて描いていきます。

PARCO Movie映画『テルマがゆく!93歳のやさしいリベンジ』予告編​


【ネタバレ注意】
※本記事では、登場人物や象徴的シーンに触れ、私なりの考察や解釈を掲載しています。これより先はネタバレになりますので、物語を楽しみたい方は鑑賞後の閲覧を推奨します。

物語の前半で描かれるのは、テルマが周囲から一斉に心配される場面です。

その心配は決して悪意ではありません。むしろ善意の塊です。

けれど、その善意が積み重なった結果、テルマの生活や判断が、本人の手から少しずつ離れていく。その過程が、とても静かに、しかし息苦しく描かれていきます。

補聴器を手に静かに佇むテルマの姿。沈黙と向き合う高齢者の内面と、尊厳が揺らぐ瞬間を表現した静かな室内風景

私はこの描写を見ながら、「支えること」と「奪ってしまうこと」の境界線について考えさせられました。

守るために手を出すことと、尊厳を残したまま寄り添うことは、似ているようでまったく違います。

冒頭、孫とテルマが機器について会話するシーンがあります。

そのやり取りはとても穏やかで、微笑ましいものでした。

だからこそ、その後に起きる出来事が、より現実味を帯びて感じられます。

便利さが前提になった社会で、すべての人が同じ速度で適応できるわけではありません。

そのギャップを「個人の不注意」で片付けてしまってよいのか。

映画は直接答えを出しませんが、観る側に問いを残します。

(※高齢者と社会を扱った作品としては

『マルセル 靴をはいた小さな貝』(2023年)なども連想されます)

シニアカーで道を進むテルマと友人たちの軽やかな冒険風景。老いをユーモアと自由で描く映画の象徴的な移動シーン

施設で出会う人々や、移動手段を使った場面には、思わず笑みがこぼれる瞬間があります。

そこにあるのは、哀愁よりもユーモアです。

老いは静止ではなく、形を変えた“動き”なのだと、この映画は教えてくれます。

体の変化があっても、人はまだ選び、楽しみ、関係を築ける。

その描き方が、過剰に感動を煽らないところに好感を持ちました。

作中で語られるこの言葉は、とても短く、シンプルです。

けれど、観終わったあとも心に残りました。

自分で何とかしなければならない。

弱さを見せてはいけない。

そんな考えを、私たちはいつの間にか抱えています。

けれど、本作は示します。

自分の限界を認め、誰かの手を借りることは、決して後退ではないと。

それは前に進むための、ひとつの選択なのだと。

穏やかな表情で前を見つめるテルマの横顔。人生を生き切った高齢女性の尊厳と、静かな達成感を感じさせる余韻のある屋外シーン

ラストで明かされる、実在のモデルの存在。

フィクションだと思っていた物語が、現実とつながった瞬間、感動は別の感情へと変わります。

「ああ、この人は本当に生きていたのだ」と思ったとき、

胸に広がるのは、温かさと同時に、確かな寂しさでした。

人生を生き切った人の物語だからこそ、

終わりが、こんなにも静かに胸に残るのだと思います。

🔗 関連作品・参考情報

🎭ジューン・スキッブ

・過去作・関連作品:

  • 『ジョー・ブラックをよろしく/Meet Joe Black』(1998年)
  • 『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅/Nebraska』(2013年)

🎭フレッド・ヘッキンジャー

・過去作・関連作品:

  • 『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声/Gladiator 2』(2024年)
  • 『ニッケル・ボーイズ/Nickel Boys』(2024年)

今日の色彩:柔らかなベージュ

今日のかけら:人生は、年齢ではなく、選択でできている

今日のひとしずく:「助けを求めるのは強さの証し」


1/31(土)公開の『雪風 YUKIKAZE

「生き残ること」は、誇りだったのか、それとも偶然だったのか。実在の艦「雪風」を軸に、時代を越えて受け継がれる想いを描く本作は、歴史劇でありながら静かな人間ドラマとして胸に迫ります。あなたなら、この物語をどう受け取りますか。

2/1(日)公開の『カッコウ

偶然のすれ違いが、人生の輪郭を少しずつ変えていく。軽やかなタッチの奥に潜むのは、「選ばされる人生」への違和感かもしれません。笑いながら見ていたはずなのに、ふと立ち止まってしまう——そんな感覚を、あなたも覚えるでしょうか。

このレビューを書いた人
高瀬 楓(たかせ かえで)
高瀬 楓(たかせ かえで)
映画と余韻のブロガー。  週末19時に更新中。
はじめまして。映画ブロガーの高瀬 楓(たかせ かえで)と申します。 「映画の余韻にじっくりと浸りながら、自分の視点で感じたことを丁寧に言葉にしたい」との思いから、映画レビューサイト《Silverscreen Pallet》を運営しています。 心に残るシーンやテーマを深く味わいながら、読者の皆さまの記憶に響くような記事をお届けできたら嬉しいです。
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