ヒューマンドラマ

映画 赦し レビュー 第14章:形式を断ち切る一言──ささやかな正義の灯【ネタバレ注意】

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【ネタバレを含みます】
本記事では、映画『赦し』の登場人物や象徴的なシーンについて触れています。物語の印象を大切にされたい方は、鑑賞後にご覧いただくことをおすすめいたします。

出典:YouTube / A FILM BY ANSHUL CHAUHAN 公式チャンネル

第14章:形式を断ち切る一言──ささやかな正義の灯

物語の終幕に置かれた、最後の裁判。
そこには、制度という大きな構造のなかで、なおも“個人の正義”を見つめようとするまなざしがありました。
淡々と語られたたったひとつの言葉が、誰もが少しずつ疲弊していったこの物語に、静かで確かな希望の火を灯します。

前の章を読む:
第13章:凍結された父性──“やり直し”に執着する理由

はじめから読む:
第1章:序章──映画『赦し』の核心へと導く視点

責任の所在を問う声と、制度の沈黙

最後の裁判で、夏菜の弁護人は国に対し、「少年犯罪であるにもかかわらず、更生の余地を十分に考慮しなかった責任」があると主張しました。そしてその責任の証として、損害賠償金を求めたのです。

表向きには“出所後の生活支援”を目的とした保証金でしたが、実際には、加害者一個人の問題ではなく、司法や制度そのものが抱える構造的な問題への問いかけとして機能していました。

わずか十数文字の拒絶、その重さ

けれど、その問いかけに対し、裁判官はこう応じます。

「保証金は支払われないものとする。」

わずか十数文字にすぎない一文。しかしその一言には、弁護側の演出や形式上の反省に対する、明確で冷静な拒絶が込められていました。

儀式化された法廷において、それはあまりに静かで、それゆえに重たい響きを持っていました。形式に流されず、その内側にある実質を見極めようとする姿勢が、そこには確かに感じられたのです。

“答えのなさ”に寄り添う、語らぬ正義

加害者にも被害者にも完全な救いのないこの物語の中で、裁判官が最後に差し出した“断ち切る言葉”は、正義とは何かを改めて問いかけるものでした。

それは決してドラマティックな救済ではありません。けれどだからこそ、その小さな一言には、制度の隙間から零れ落ちそうになる“人間らしさ”が、確かに宿っていたように思えます。

裁く者でありながら、語るべき限界を知り、語らぬ勇気を持った裁判官のまなざしは、誰もが答えを持てない世界に灯された、ひとつのささやかな正義でした。


次章予告

次章では、裁判が終わった後の澄子と克の姿に目を向けます。
言葉を交わすこともなく、ただ静かに──それでも決して並んでは歩かない二人の足取り。
過去に縛られた関係性が、未来へとほどけていく過程には、切なさと希望が同時に揺れています。

次の章を読む:
第15章:離れて歩く澄子と克、ジグザグに進む未来

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このレビューを書いた人
高瀬 楓(たかせ かえで)
高瀬 楓(たかせ かえで)
映画と余韻のブロガー。  週末19時に更新中。
はじめまして。映画ブロガーの高瀬 楓(たかせ かえで)と申します。 「映画の余韻にじっくりと浸りながら、自分の視点で感じたことを丁寧に言葉にしたい」との思いから、映画レビューサイト《Silverscreen Pallet》を運営しています。 心に残るシーンやテーマを深く味わいながら、読者の皆さまの記憶に響くような記事をお届けできたら嬉しいです。

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